ヨルダンといえば、死海やペトラ遺跡といった壮大な観光地に恵まれ、中東諸国の中でも「比較的治安が安定している」と言われる国のひとつです。政情も他の隣国と比べれば落ち着いており、毎年多くの観光客が訪れています。
とはいえ、“比較的安全”という言葉の裏には、文化の違いや、女性という立場ならではの注意すべきポイントが数多く存在します。
特に外国人女性は「目立つ存在」として見られやすく、知らないうちにトラブルに巻き込まれてしまうケースも少なくありません。
ここでは、実際に報告された事例をもとに、女性旅行者が直面した3つのトラブル事案を紹介します。
ヨルダンの治安は悪い?女性が巻き込まれやすいトラブル事案3選

ヨルダンは一般的に中東の中では治安が良いとされますが、それでも外国人女性に対する小さなトラブルは頻発しています。
軽犯罪や文化的な誤解に基づく被害は、現地では「問題にならないこと」でも、旅行者にとっては大きなショックとなることもあるのです。
2024年アンマン旧市街で発生した日本人女性のスリ被害事案
アンマンの旧市街、バラカ地区を歩いていた日本人女性が、混雑したスーク(市場)で財布をスリに盗まれるという事件が2024年に発生しました。
一見穏やかな雰囲気の商店街ですが、観光客でにぎわう場所では、スリが集中的に狙いを定めてくることがあるのです。
特に被害に遭いやすいのは、ショルダーバッグを身体の外側にかけていたり、スマートフォンを手に持ったまま歩いていたりする女性です。
地元の人にとっては観光客の持ち物は“高価なターゲット”と見られがちで、狙われやすい時間帯は夕方〜夜、または金曜礼拝後の混雑時が中心です。

女性観光客がザルカでタクシー運転手に付きまとわれた事案
2023年、アンマン郊外のザルカ地区を訪れていたヨーロッパ人女性が、配車アプリではないタクシーを利用した際、運転手にしつこく付きまとわれるという事案が発生しました。
運転手は、目的地に到着後も彼女を降ろさずに連絡先を聞き出そうとし、女性が拒否したところ車内で怒声を上げたと報告されています。
このような事案は珍しくはなく、「外国人女性=気軽に連絡先を教えてくれる」と誤解している現地男性も一部に存在します。
カタールやサウジとは異なり、ヨルダンは多少オープンな社会ではあるものの、女性が男性に対して毅然とした態度を取らないと、距離を詰められやすいのも事実です。
ペトラ遺跡でラクダ業者に高額チップを要求されたトラブル事案
ペトラ遺跡では、現地のラクダ業者やキャメルガイドが観光客に声をかけてきます。
その中で、ある日本人女性が体験したのが、「最初は無料と言われたが、写真を撮っただけで20ディナール(約4,000円)を請求された」という事案でした。
これは典型的な“観光地トラブル”の一種で、最初はフレンドリーな雰囲気を出して近づき、女性に対してプレッシャーをかけるように金銭を要求する手口です。
断ると、「払わなければ通報する」と脅されたり、周囲に恥をかかせるような態度で詰め寄られることもあるため、現地では毅然と“NO”を伝えることが重要になります。

ヨルダンで女性が守るべき服装ルール

ヨルダンは中東諸国の中では比較的リベラルな側面を持ちますが、国民の多くがイスラム教徒であり、宗教的・文化的に「女性の肌の露出」は慎ましい振る舞いとして求められています。
観光地だから大丈夫と思って油断すると、現地の人からの無言の視線や、時には直接的な注意を受けることもあるのです。
スカーフなしで市場を歩いていたら怒られた…
2024年、アンマン旧市街の市場で買い物をしていた西洋人女性が、スカーフを巻かず、半袖のシャツで歩いていたところ、地元の中年女性から「ここではその服装は良くない」と声をかけられる事例が発生しました。
特に年配層や保守的な宗教関係者の多いエリアでは、外国人でも「服装で敬意を払ってほしい」と考える人が多いのです。
ヨルダンではスカーフの着用が法律で義務づけられているわけではありませんが、モスクや宗教施設、保守的な地域に入るときはスカーフやストールで髪を覆うことが望ましいマナーとされています。
それは信仰の強制ではなく、「文化への配慮」として現地の人々から信頼や安心感を得られる行動なのです。
ペトラ遺跡で肩を出した服装で入場拒否?露出が多い服装はNG

死海やペトラのような観光地でも、現地の従業員や保安スタッフが服装に目を光らせている場面があります。
ある旅行者は、キャミソールタイプのトップスとショートパンツでペトラ遺跡に向かったところ、「その服装では入りにくい。ストールを借りて着て」と指示されたという体験を語っています。
日中の気温が40度を超える夏のヨルダンでは、軽装で過ごしたくなるのは当然です。
しかし、観光客が集まる場でも、現地住民の目は「文化の一部」として働いており、肌の露出が多いと、無言の圧力や視線にさらされることになります。
ペトラ遺跡では写真を撮る人も多いため、肌を露出した服装だと周囲の注目を集めてしまい、男性に声をかけられるリスクも高まるのです。
ヨルダン旅行で安全かつ快適に過ごすには、以下のようなスタイルが好ましいとされています。
- 肩が隠れるトップス(半袖〜七分袖)
- 膝下まであるロングスカートかゆったりしたパンツ
- スカーフまたはストール(頭を覆うだけでなく、日差し対策にも有効)
- 身体のラインを強調しない服
また、色味についても派手すぎないナチュラルカラーを意識すると、現地に溶け込みやすく、観光地での“悪目立ち”を防げます。
ヨルダンは今どうなの?最新の治安情報
2025年の現在、ヨルダンは中東の中でも「比較的安定している国」と評価されているものの、その背景には周辺国の影響や国内情勢の微妙な緊張感があります。
旅行者、特に女性にとっては「安全かどうか」はその時の情勢と場所によって変わるため、常に最新情報を把握して行動する意識が不可欠です。
国の90%以上が「十分注意レベル」程度

日本の外務省が発表している2025年時点の渡航安全情報によれば、ヨルダン全土の大部分は「レベル1:十分注意してください」または「レベル2:不要不急の渡航は止めてください」に指定されています。
アンマンやペトラ、死海周辺といった主要観光地は比較的安全とされており、観光インフラも整っています。
ただし、観光客の増加に伴い、スリや詐欺、ガイドとの金銭トラブルなど、観光地特有の軽犯罪が報告されている点は注意が必要です。
また、交通事情や警察の対応に地域差があるため、「安全=何も起こらない」という過信は禁物です。
特に個人旅行の場合は、人目の少ない路地や暗くなる時間帯の移動は避けた方が無難です。
ラマダン期間中は特に注意が必要
ヨルダンでは国民の約92%がイスラム教徒であり、ラマダン月(断食月)には社会全体が宗教色を強く帯びます。
この期間中は、日中に公共の場での飲食・喫煙が禁じられ、観光客にも一定の配慮が求められます。
- レストランやカフェが日中は閉店していることが多い
- 現地の人々が空腹や疲労から精神的に不安定になりやすい
- 夜のイフタール(断食明け)の時間帯に交通渋滞や人混みが集中する
こうした社会的な変化のなかで、外国人女性が無意識に文化的タブーを破ってしまうリスクもあるため、事前にラマダンの時期やマナーを確認しておくと安心です。
外務省によると「シリア・イラク側の治安情勢は不安定」

ヨルダンは、シリア・イラクと国境を接しており、その周辺地域は今も不安定な情勢が続いています。
特に北部のイルビド州や東部のルウェイシッド周辺では、難民の流入や国境警備の強化により、外国人にとっても緊張感の高いエリアとされています。
外務省もこれらの地域については、2025年も引き続き「レベル3:渡航中止勧告」または「レベル4:退避勧告」を発出しており、観光や仕事を問わず、近づかないことが強く推奨されています。
また、国境地帯では軍や警察による検問も頻繁に行われており、パスポートの提示や質問対応が求められる場合があります。観光客が誤ってこうした地域に入り込まないよう、地図アプリやツアー会社の説明をしっかり確認しておきましょう。

ヨルダンへの女性の一人旅は可能?安全に楽しむための対策と心構え

まず結論から言えば、ヨルダンへの女性の一人旅は「十分可能」です。
ただし、それは「最低限の文化理解と警戒心をもって行動すること」が前提となります。現地の人々は非常に親切でフレンドリーですが、文化の違いや立場の誤解から、無用なトラブルに巻き込まれる可能性もゼロではありません。

基本的に親切なガイドでも連絡先は絶対に教えない
ヨルダンの観光地では、ガイドやショップの店員がとても親切に話しかけてくることがあります。
「日本人?ようこそ!」「どこから来たの?」といった挨拶から始まり、写真を撮ってくれたり、お茶をすすめられたりすることも珍しくありません。
しかし、そこで気を許してSNSのアカウントやWhatsAppの番号を教えてしまうと、後々プライベートなメッセージが頻繁に送られてきたり、ストーカー的な行動に発展するリスクもあるのです。
現地の男性が「連絡先を聞くのは礼儀」という考えを持っている場合もあるため、丁寧かつはっきりと断る姿勢が必要です。
一度でも個人情報を渡してしまうと、それが周囲に回されるリスクもあるため、「ありがとう、でも個人的な連絡はしていません」といった線引きをあらかじめ決めておくことが安心につながります。
夜間の外出は極力控えるように

日中のヨルダンは観光客でにぎわっていて明るい雰囲気ですが、日が沈むと町の様子は一変します。
街灯の少ないエリアも多く、飲食店や商店は早めに閉まるため、一人で歩く女性が極端に目立ってしまうのです。
また、夜間になると一部の若者グループや好奇心の強い男性が、外国人女性に声をかけたりつきまとったりする事例も散見されます。トラブルを未然に防ぐためには、
- 20時以降の一人歩きはできるだけ避ける
- どうしても外出が必要な場合は、タクシーやホテルの送迎を使う
- レストランやカフェでは出入口付近の明るい席を選ぶ
など、「目立たない・近寄られない」行動パターンを意識することが大切です。
また、帰りが遅くなるときはホテルのフロントに伝えておくと、万が一の時の備えになります。
ヨルダンでは、多くの女性が一人旅を楽しんでいます。
しかしその裏には、自分を守るためのちょっとした工夫と、現地文化への尊重があるという事実を忘れてはいけません。安心して旅をするためには、「現地に馴染むけれど、境界は崩さない」、そんなバランスが必要です。
【まとめ】ヨルダンは女性旅行者にとって安全か?注意点と判断材料
ヨルダンは、ペトラ遺跡や死海、ワディ・ラムなど、世界的に有名な観光地を多く抱える国であり、中東の中でも「訪れやすい国」として高く評価されています。実際に、治安も比較的安定しており、暴力的な事件や重大なテロの発生率は非常に低いです。
ただし、「安全=油断してもいい」という意味ではありません。
特に女性旅行者の場合、文化的・宗教的な価値観の違い、ジェンダーに対する社会的見方の違いが原因で、思わぬトラブルに巻き込まれることがあるからです。
- 服装の配慮
肌の露出を控えた服装で、現地の価値観に敬意を払うこと。スカーフやストールは持参すると便利。 - 不要な接触を避ける
親切なガイドやスタッフでも、連絡先は教えず、一定の距離感を持つこと。 - 夜間の一人行動は控える
暗くなる前にホテルに戻るか、信頼できる移動手段を使う。 - 地域ごとの治安を把握する
観光地以外のエリア、とくに国境近くの地域には近づかない。 - 最新の治安情報を確認し続ける
外務省や大使館、旅行会社などからリアルタイムで情報を得るように心がける。
ヨルダンは、治安面だけを見れば確かに安全に分類される国です。
ただし、女性旅行者としては、「現地の文化に敬意を持って旅する」ことが安心・快適さに直結する国でもあります。
日本とは異なる価値観に触れることは、時に驚きであり、時に学びにもなります。その旅が“怖かった”で終わるか、“楽しかった”と語れるかは、準備と心構え次第。あなたの旅が、トラブルなく、豊かな出会いと発見に満ちたものになりますように。