昔のシリアは治安が良かった?現在の治安情報・渡航禁止の現状まで徹底解説

シリア治安良かったのアイキャッチ

現在のシリアと聞くと、多くの人が「内戦」「テロ」「渡航禁止」といった危険なイメージを抱くかもしれません。

しかし、一昔前までは、シリアは中東でもっとも安定した国のひとつと評され、外国人観光客にも人気がありました。
美しい古代遺跡、親切な人々、物価の安さ・・・

それらは確かに存在し、「もう一度行きたい国」として語る旅人も少なくありません。

では、なぜ“昔のシリアは治安が良かった”と言われるのか?その理由を歴史的背景から見ていきましょう。

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目次

シリアの治安が「良かった」と言われていた3つの理由

シリアの治安が良かったと言われる理由

2025年現在、治安が最悪レベルとされるシリアですが、内戦前は「中東で最も安全で快適な国のひとつ」と広く評価されていました。

観光地としても人気があり、国連世界観光機関(UNWTO)の統計によると、2010年には年間800万人以上の観光客がシリアを訪れていた記録があります。ここでは、なぜ当時それほどまでに「治安が良い国」とされていたのか、その背景を3つの観点から解説します。

独裁政権下での厳格な治安維持体制だったから

シリアの風景

内戦前のシリアでは、バッシャール・アル=アサド大統領率いるバース党による強権的な政治体制が敷かれていました。市民の自由は制限されていましたが、その反面、犯罪抑止力は極めて高く、路上強盗や暴動といった治安リスクは非常に低かったのです。

たとえば、2010年の内務省統計では、殺人事件発生率は10万人あたり1.4件とされ、当時の中東平均(約4.6件)を大きく下回っていました。街中には私服警官や情報部員が常駐し、「国家が常に監視している」という緊張感が犯罪抑制に直結していたとも言われています。

旅行者の口コミでも、

アレッポの夜市を女性ひとりで歩いても危険は感じなかった。財布やスマホを出していても誰も気にしない

といった声も見られ、安全性の高さを裏付ける証言となっています。

宗教・民族間の共存と社会の安定していたから

シリアの風景

シリアは多民族・多宗教国家です。スンニ派イスラム教徒を多数派としながら、アラウィー派(アサド大統領の宗派)、キリスト教徒、ドルーズ派、クルド人など30以上の宗教・民族グループが共存していました。

内戦前の政府はこれらの宗派間対立を避けるため、政教分離的な国家運営を重視し、宗派の影響が強すぎる教育や報道は厳しく制限していました。

そのため、多様な人々が比較的平和に暮らしており、モスクの隣に教会が建っている光景も珍しくなかったのです。2020年以前のガイドブックにも、

宗教色が強くなく、女性旅行者にも優しい国。シリア人は多くが穏やかで、観光客に親切

と記載されており、宗教寛容性と市民のホスピタリティが高く評価されていたことがわかります。

高い教育水準と公共サービスの充実していたから

内戦前のシリアは、アラブ諸国の中でも教育水準が非常に高い国として知られていました。ユネスコの2010年の報告によると、シリアの成人識字率は88.7%、15~24歳では94.5%を記録しており、エジプト(70%台)やモロッコ(60%台)を大きく上回っています。

大学教育も原則無償で提供されており、国民は医療や水道、電気といった公共インフラにも広くアクセスできていました。アレッポ、ダマスカスといった都市では、道路や鉄道網も整備されており、外国人でもストレスなく移動できる環境が整っていたのです。

実際、旅行者のレビューにも

列車でホムスからダマスカスまで移動したけど、驚くほどスムーズ。駅には英語案内もあった

といった体験談が見られ、インフラ・行政の機能性が旅行者に安心感を与えていたことがうかがえます。

このように、内戦前のシリアは「表現の自由」こそ制限されていたものの、社会全体としては非常に安定しており、観光地としても高い信頼と満足度を得ていた国でした。その“かつての平穏”が崩れ去るのは、2011年のある出来事からです。

シリアの治安はなぜ悪化したのか?

治安が悪化した理由

シリアが“中東で最も安全な国のひとつ”と呼ばれていたのは2010年まで。

しかし、翌2011年に発生した「アラブの春」によって、その安定は一気に崩壊しました。わずか数年の間に、シリアは世界最悪レベルの内戦国家へと姿を変えたのです。

2011年の「アラブの春」による民主化運動の拡大

民主化運動の拡大

2010年末にチュニジアから始まった「アラブの春」は、アラブ諸国にドミノ式に広がり、長期独裁政権に対する市民の怒りを爆発させました。

シリアでも2011年3月、ダラア市で発生した中学生の落書きに対する政府の過剰弾圧をきっかけに、抗議デモが全国へと拡大。

国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」によると、2011年だけで民間人死者数は推定5400人以上にのぼり、これが政府の強硬姿勢への反発と、武装蜂起の誘発につながりました。

市民運動から始まったデモは次第に政府と反政府勢力の武力衝突に変化し、「内戦」の様相を強めていったのです。

参照リンク

内戦の勃発と多国籍勢力の介入

2012年には、反政府側に「自由シリア軍(FSA)」が形成され、本格的な戦闘が勃発。
この混乱に乗じて、イラン・ロシアがアサド政権を支援し、同時にサウジ・トルコ・アメリカなどが反政府勢力を支援するようになりました。

一国の内戦はたちまち国際代理戦争へと発展し、各国が武器、軍事アドバイザー、空爆などで介入。
その結果、政権・反政府・イスラム過激派・クルド勢力・外国軍が入り乱れる「五つ巴」状態が生まれ、国の統治構造は崩壊しました。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のデータによると、2023年時点で、シリア国内避難民は670万人以上、国外難民は570万人を超え、国民の半数以上が居住地を追われた計算になります。

参照リンク

宗派間対立の激化とテロ組織の台頭

シリアの内紛

アサド政権が少数派であるアラウィー派に属することから、スンニ派多数派との対立が激化。
これにより、反政府陣営の内部にも宗派の分裂が持ち込まれ、武装勢力同士の内輪揉めが日常的に発生するようになりました。

この混乱の隙を突いて登場したのが、IS(イスラム国)やアル=ヌスラ戦線(後のハヤート・タハリール・アッ=シャーム)などの過激派組織です。

彼らは「聖戦」を旗印に勢力を拡大し、2014年にはISがシリアとイラクの国境地帯を制圧、ラッカを“首都”と宣言。
その残虐な統治と破壊行為は、世界中のテロ警戒レベルを一気に引き上げました。

米国防総省の統計では、ISによる人道犯罪や市街地襲撃で死亡した民間人は、2014年〜2019年の間で少なくとも4万人以上と推定されています。

このように、シリアの治安悪化は、単なる政府の弾圧だけでなく、宗派・外国勢力・テロ組織の利害が複雑に絡み合った構造的な問題に発展しました。そして現在も、その混乱は完全に収束しておらず、国全体の治安は“極度に不安定”な状態にあります。

参照リンク

現在、シリア旅行はできるの?

シリアへの渡航は、理論的には一部地域で可能ですが、実際には極めて高いリスクを伴います。

この章では、シリア渡航に関する外務省および各国政府の最新勧告に基づき、なぜ「旅行は避けるべき」とされるのか、現地の治安・医療・移動インフラの実情とともに解説します。

外務省の渡航禁止勧告とその背景

シリアの治安(外務省)

2025年現在、日本の外務省はシリア全土を「レベル4:退避勧告」対象に指定しており、これは最も厳しい危険情報レベルです。

この警告は、武力衝突、テロ、誘拐、インフラ崩壊など複合的なリスクが高水準で存在しているためで、「いかなる理由でも渡航はやめるべき」と明確に記されています。

シリアの危険・スポット・広域情報

また、アメリカ国務省も同様に「Do Not Travel(渡航禁止)」の勧告を継続中であり、これに従わず渡航した米国人が拘束された例もあります(参照:U.S. Department of State – Syria Travel Advisory)。

これらの勧告の背景には、特に外国人に対する誘拐・スパイ容疑・不当拘束のリスクが高いことがあり、事実として人道支援活動中の欧州関係者が誘拐されるケースも過去に報告されています。

一部地域での限定的な旅行再開の動き

シリアの風景

政府支配下にあるダマスカスやアレッポの一部では、旅行代理店を通じたツアー形式での入国事例がわずかに報告されています。

ただし、これは事前に政府から許可を得た場合に限られ、個人旅行や自由行動は基本的に不可能です。旅行者のSNSでは、

ビザ取得には現地旅行会社を通す必要があり、ルートや行動範囲は厳しく管理された

という証言もあり、事実上“見せられる範囲しか行けない旅”となっているのが現状です。

また、現地では依然として突発的な空爆、爆発事件、地雷被害の報告が続いており、いかなる安全保障も完全ではありません。

旅行者が直面するリスクと注意点

現在のシリア旅行には、次のような重大なリスクがあります。

  • 外国人誘拐・拘束のリスク:特に報道関係者やNGO関係者を「スパイ」と誤認するケースが報告されています。
  • 医療崩壊と感染症リスク:病院が機能していない地域が多く、コレラなどの感染症も発生しています。
  • 交通インフラの不備:多くの道路や橋が破壊され、治安部隊による検問で移動が極端に制限されています。
  • 外交的孤立による保護の難しさ:日本を含め、多くの国がシリアに大使館を設置しておらず、緊急時の支援が受けにくいのが実情です。

国際赤十字は、2024年時点で「一般市民が巻き込まれる戦闘が散発的に続いている」と報告しており、観光目的の訪問が適切でないことは明白です(参照: ICRC Syria Report)。

このように、シリアへの旅行は理論上可能であっても、現実には生命・健康・自由を著しく脅かす環境であり、強く推奨されない状況が続いています。

まとめ|シリアの治安は△ 渡航はおすすめできない!

「かつては安全だった国」シリアは、現在でもなお世界屈指の危険地域です。2025年現在、内戦の影響は一部地域でやや落ち着きを見せているとはいえ、誘拐・空爆・地雷・医療崩壊・外交的孤立など、旅行者にとっては致命的なリスクが数多く残っています。

外務省、アメリカ国務省、国連機関、国際人権団体いずれも、シリアへの渡航はあらゆる理由を問わず「控えるべき」と明確に警告しています。

現地に入る手段はあるにせよ、現実的に安全とは言えず、観光や個人旅行の対象として選ぶべき国ではないのが現状です。旅行者としては、

  • 現地の情勢をロマンチックに美化しないこと
  • SNSや一部ツアー業者の“行ける雰囲気”に流されないこと
  • 万が一の際に誰も助けられない場所であること

これらを正しく理解した上で、安全な別の目的地を選択する勇気が必要です。

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この記事を書いた人

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