熱帯雨林に覆われ、800を超える部族と言語が存在するパプアニューギニアは、地理的にも文化的にも非常にユニークな存在です。
しかし、そんな美しいイメージとは裏腹に、実は、
世界の中でも特に治安が悪い国のひとつとして知られており、「行ってはいけない国ランキング」などにも名を連ねることがあります。
この記事では、パプアニューギニアの知られざる
- 治安が悪いと言われる理由
- 問題視されているジェンダー問題について
- 日本人旅行者が注意すべきこと
について詳しく解説します。
「パプアニューギニアって一体どんな国?」と興味を持っている方から、「絶対に安全に旅したい!」という方まで、ぜひ最後まで読んでみてください。
パプアニューギニアが治安が悪いと言われている5つ理由は?

「治安が悪い」とひとくちに言っても、その背景には社会構造や文化的要因、経済状況など複数の原因が複雑に絡み合っています。
以下では、パプアニューギニアにおける治安悪化の要因を深掘りしていきましょう。
首都ポートモレスビーは強盗、窃盗、暴力事件が日常的に発生している
まず最初に言及しなければならないのが、首都ポートモレスビーの治安の悪さです。
強盗、窃盗、暴力事件が日常的に発生しており、観光客だけでなく、地元の住民でさえも外出に慎重になるほどです。
特に夜間の外出は非常に危険で、タクシーすらも安全とは言えません。道を歩くだけでも、無差別に襲われる可能性があります。
しかも、襲撃者たちは複数人で徒党を組んでいることが多く、抵抗すれば命の危険すらあるのです。ポートモレスビーには一部の安全な地域も存在しますが、地理感覚に乏しい旅行者にとってはその見極めが困難です。
さらに、政治機能や経済の中枢を担う都市であるにも関わらず、インフラの未整備やスラム街の拡大が著しく、犯罪温床となる要素が多く残されています。
貧困と経済格差により犯罪に走る土壌が広がっている

パプアニューギニアのもう一つの大きな問題は、極度の貧困と経済格差です。
一部の富裕層や政府関係者が潤う一方で、地方や都市のスラムに住む人々は日々の食事にも困るような生活を送っています。このような経済格差は、人々を犯罪へと追い込む土壌を作り出しています。
「盗まなければ生きていけない」という悲痛な選択が、日常的に行われているのです。
加えて、若者の失業率が非常に高く、未来に希望を持てない彼らがギャングや犯罪グループに加入する例も後を絶ちません。こうした社会的背景が、治安悪化に拍車をかけています。
実際、都市部では「ラスト・ワントク(Raskol Gangs)」と呼ばれるストリートギャングが活動しており、彼らは強盗、麻薬密売、暴力など、さまざまな違法行為を日常的に行っています。
警察すら手を出せないような地域も存在し、いわゆる「無法地帯」が点在しているのです。
警察力の弱さと汚職 治安維持が機能していない
パプアニューギニアにおける治安悪化の大きな要因のひとつに、国家の警察力の弱さと深刻な汚職問題が挙げられます。表面的には警察組織が存在しており、治安維持を任されているものの、実際にはその機能がほとんど果たされていないのが現状です。
理由は多岐にわたりますが、まず根本的なところで警察の人員不足が深刻です。
広大な国土に対して圧倒的に数が足りず、都市部ですら警察の目が届いていない地域が多くあります。さらに装備の不足や訓練レベルの低さも問題で、犯罪に対抗する力が物理的に不足しているのです。
それに加えて、警察内部の汚職が非常に深刻なレベルに達しています。賄賂を受け取る警官、犯罪者と裏でつながっている捜査官、さらには被害届が握りつぶされることも珍しくありません。市民の多くは「警察は信用できない」と口をそろえ、犯罪被害に遭っても通報しないケースもあります。
つまり、犯罪者が捕まらないだけでなく、法の網が機能していないという致命的な状況に陥っているのです。このような環境では、犯罪は自然とエスカレートし、治安の回復がますます困難になるという悪循環が生まれてしまいます。
パプアニューギニアの人喰い事件があった?

治安の悪さを語る上で、一部の報道や伝説的に語られてきた「人喰い(カニバリズム)」に関する話題も避けては通れません。これについては事実と誤解が入り混じっており、ややセンセーショナルな取り上げ方がされることもあります。
パプアニューギニアでは、過去の部族社会において実際にカニバリズム(人肉食)が儀式や報復の一環として行われていた記録があります。これは宗教的または文化的な背景によるもので、決して日常的な行為ではありませんでした。
しかし、20世紀中盤までに多くの部族が現代化の影響を受け、こうした風習は姿を消したとされています。
とはいえ、2000年代以降にも極めて稀ではあるものの、「魔術を使った者を制裁の一環として殺し、肉を食べた」といった衝撃的な事件が報告されており、国際社会に大きなインパクトを与えました。こうした事件は例外的ではありますが、依然として一部地域では法の及ばない独自の文化と裁きが残っていることを示しています。
このような話題が誤解とともに拡散されることで、パプアニューギニア全体のイメージを悪化させている側面もありますが、特定地域の深刻な治安状況が背景にあることは間違いありません。
参照:CNN「パプアニューギニア、バイデン氏の「人食い人種」発言に反発」
部族間抗争と報復文化(ペイバック)
パプアニューギニアには、現代国家の枠組みとは別に、伝統的な部族社会が根強く存在しています。そしてこの部族間での抗争が、治安を大きく悪化させる原因の一つとなっています。
特に地方部では、国家の法制度よりも部族の掟(カスタム・ロー)が重視されており、トラブルが発生した際には「裁判所」ではなく、報復による制裁(ペイバック)が取られることが多いのです。
例えば、殺人事件が起きた場合、被害者側の部族が加害者側の家族を襲撃し、命を奪って“均衡”を図ろうとすることがあります。こうした連鎖的な報復が、村や地域全体を巻き込んだ大規模な武力衝突に発展するケースも存在します。
現代社会においては信じがたい文化かもしれませんが、彼らにとっては「正義を自らの手で貫く」という考えが根強く残っているのです。これにより、治安当局が介入することも難しく、暴力がエスカレートしやすい環境が形成されています。
また、火器の流入が一部地域で進んでおり、AK-47などの自動小銃を所持している部族も確認されています。政府の管理が届かない地域では、こうした“武装部族”が事実上の支配者となっており、旅行者が足を踏み入れることは非常に危険です。
女性は危険?パプアニューギニアのジェンダー問題

パプアニューギニアの治安状況を語る上で、避けて通れないのが女性に対する暴力と差別の問題です。
国際機関や人権団体からもたびたび警鐘が鳴らされており、ジェンダー格差と女性の権利侵害は深刻な社会課題のひとつとなっています。文化的・宗教的な背景が根深く、外部からの改革は容易ではありません。
世界最悪レベルの性暴力率を記録する国のひとつ
まず、パプアニューギニアは女性に対する性暴力の発生率が世界最悪レベルだと国際的に指摘されています。調査によっては、成人女性の約3分の2が人生で何らかの形で性的暴力を経験しているという衝撃的なデータも存在します。
性犯罪がこれほどまでに蔓延している背景には、社会全体に根づいた男尊女卑の価値観や、法的な保護の欠如があります。多くの女性は性暴力の被害に遭っても、警察に訴え出ることができません。
なぜなら、訴えても取り合ってもらえなかったり、逆に「恥を晒した」として家族から責められたりする恐れがあるからです。
さらに、加害者が家族や地域の有力者である場合には、被害者が加害者と結婚させられるというケースすらあります。これは、家の名誉を守るためだという文化的価値観によるものですが、現代の人権基準から見れば明らかに女性の権利を侵害する行為です。
都市部であってもこのような状況は珍しくなく、特に地方や部族社会の中では性暴力に対する意識改革がまだまだ進んでいないのが現実です。

魔女狩りと「女性の命が軽視される文化」
現代の日本では想像しがたいことですが、パプアニューギニアの一部地域では魔女狩りがいまだに行われているという事実があります。
これは宗教的な迷信や文化的な慣習が関係しており、不幸な出来事が起きたときに、その責任を「魔術を使った女性」に押し付けるという理屈で処罰されるのです。
「近所の子どもが病気になったのは、あの女が魔術を使ったせいだ」
「農作物が育たないのは誰かが呪いをかけた」
こうした非科学的な推測によって、無実の女性が村人から襲われ、拷問され、殺されるという事件が後を絶ちません。
実際、国際NGOや人権団体の報告によれば、毎年数十件の「魔女狩り事件」が発生しており、その大半の犠牲者が女性です。法的な救済措置が取られることは稀で、むしろ村全体が黙認しているケースもあります。
このような状況は、単なる個人の犯罪というよりも、女性の命が軽んじられる社会構造そのものに起因しています。
関連記事:PACIFIC ISLANDS NEWS「魔女狩りとして5人の女性を拷問した犯人を警察が捜索」
「男尊女卑」が制度的に容認されてきた背景
パプアニューギニアでは、長い間「女性は家にいて、男の言うことに従うもの」という価値観が当然とされてきました。
教育や医療の分野においても、女性は男性に比べて著しく不利な立場に置かれています。たとえば、小学校に入学しても、思春期を迎えると家事や結婚のために退学させられるケースが少なくありません。
また、政治やビジネスの世界でも女性の進出はほとんど見られず、国会議員の中で女性が占める割合は1%未満という信じがたい現実があります。つまり、社会の意思決定の場に女性がほとんど存在しないのです。
こうした構造的な不平等が、ジェンダー暴力の温床となっているだけでなく、女性たちが自らの権利を主張する機会すら奪っているのが現実です。
パプアニューギニアを旅する日本人が気をつけるべきこと

近年、日本人旅行者の間でも「手つかずの大自然」「世界最後の秘境」として密かに注目されているパプアニューギニア。
しかし、これまでに解説してきた通り、治安面では非常にリスクが高い国であり、安易な気持ちで訪れると取り返しのつかないトラブルに巻き込まれる危険性があります。
ここでは、日本人がパプアニューギニアを訪れる際に注意すべき重要なポイントを具体的に紹介します。
現地文化を知らずに行くとトラブルになりやすい

まず大前提として、パプアニューギニアは文化的に非常に繊細な社会であることを理解しておく必要があります。
800を超える言語と民族が存在し、それぞれの部族が独自の慣習やルールを守って暮らしているため、一つの価値観で物事を判断するのは非常に危険です。
例えば、写真撮影ひとつ取っても、無断で村人や子どもを撮ることが厳しく禁じられている地域があります。
「観光だから大丈夫」と軽い気持ちでカメラを向けたことが、部族の怒りを買い、命の危険に晒されることも実際に起こっています。
また、挨拶の仕方、物の受け渡し、目線の使い方など、些細な行動でも「無礼」と捉えられる可能性があるため、事前にその地域の文化やタブーをしっかりと学ぶことが重要です。現地で信頼できるガイドを雇うのはもちろん、一人で行動しないことが鉄則です。
女性単独行動は極めて危険なため、避ける
特に女性の旅行者は、パプアニューギニアを単独で行動することを絶対に避けるべきです。前述のとおり、パプアニューギニアは世界でも最悪レベルの性犯罪率を抱えており、外国人女性が一人で歩くことは極めて危険とされています。
実際、日中の明るい時間帯でも、路地や人の少ない場所では誘拐や強姦のリスクがあります。また、地元の男性に「興味本位で声をかけられる」こともあり、拒否の仕方を間違えると逆上されるケースも存在します。
女性旅行者がどうしても渡航する必要がある場合は、必ず信頼できる男性の同行者を見つけ、できれば現地に詳しいガイドと常に行動をともにすることが推奨されます。さらに、肌の露出が多い服装は控え、できるだけ現地女性の服装に合わせたスタイルにすることで、余計なトラブルを避けることができます。

都市部以外はほぼ圏外
パプアニューギニアでは、都市部以外の地域ではインフラがほぼ整備されていません。
道路は舗装されておらず、交通手段も限られています。通信環境についても非常に厳しく、スマートフォンが圏外になる場所がほとんどです。電波が入らないというだけでなく、電気や水道も通っていない村も珍しくありません。
これにより、万が一何かトラブルに巻き込まれたとしても、助けを呼ぶことができないという重大なリスクが伴います。また、地方では部族間抗争が発生することもあり、旅行者が巻き込まれる可能性もゼロではありません。
そのため、都市部から離れた地域に行く際には、現地事情に精通したガイドを必ず伴うこと、あらかじめ大使館や家族にスケジュールを共有することが必要不可欠です。
決して「冒険旅行」のような軽い気持ちで奥地に足を踏み入れないようにしましょう。
【まとめ】パプアニューギニア旅行は「正しい準備」と「現地理解」が必要
ここまで見てきたように、パプアニューギニアは美しい自然とユニークな文化を持つ一方で、治安や社会問題の深刻さが見過ごせない国です。旅行者やビジネス渡航者が軽率な気持ちで訪れると、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性が非常に高いということがわかります。
しかし、パプアニューギニアを完全に避けるべき場所だというわけではありません。現地の文化を尊重し、入念な準備と安全対策を講じることで、ある程度リスクを軽減しながら訪問することは可能です。以下のような心構えが何よりも大切になります。
- 現地文化や風習を事前に学ぶ
- 信頼できる現地ガイドを確保する
- 最新の治安情報を外務省や大使館を通じて確認する
- 過信せず、慎重に行動する
また、旅行前には海外旅行保険の加入や、緊急連絡先の確認も忘れずに行いましょう。パプアニューギニアで安全に過ごすためには、「行く勇気」よりも「慎重さ」と「謙虚さ」が重要なのです。