南米コロンビアと聞くと、まず思い浮かぶのは「麻薬」「ゲリラ」「誘拐」など、どこか危険で近づきがたいイメージかもしれません。確かにかつては世界的にも治安の悪い国の代表格であり、特に1980〜90年代には麻薬カルテルや反政府武装勢力による暴力が蔓延していました。
しかし、今のコロンビアは、和平合意の進展、観光地の再開発、インフラ整備の加速などにより、一部の都市では世界中の旅行者を歓迎する“安全な場所”へと変わりつつあるのです。
とはいえ、未だに危険な地域や無法地帯が存在するのも現実です。
この記事では、「なぜコロンビアは治安が悪いと言われるのか?」を歴史・社会・経済の側面から分析し、現在の治安状況を客観的に紹介します。
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なぜコロンビアは「治安が悪い」と言われるのか?5つの理由

コロンビアの治安が悪化した背景には、単純な犯罪率の高さだけでなく、長年にわたる内戦の影響や、麻薬経済との結びつき、国家統治の脆弱性といった複合的な要因が存在します。
ゲリラ組織FARCと長年の内戦の影響が今も残っている
コロンビアは、1960年代から約50年にわたり内戦状態が続いていた国です。
その中心にいたのが、FARC(コロンビア革命軍)という左翼ゲリラ組織で、彼らは農村部を拠点に政府と武力闘争を繰り広げてきました。
FARCは麻薬資金で武装し、誘拐や暗殺、爆破テロを繰り返し行い、国中を恐怖に陥れました。
和平合意は2016年に成立し、一定の成果を上げたものの、完全な武装解除がなされたわけではなく、FARCの残党や他の非合法武装集団が今も活動を続けている地域もあります。
特に山間部や農村地域では、いまだに「政府が届かないエリア=事実上のゲリラ支配地」として機能しており、旅行者の立ち入りが禁止されている地域も多いのです。
麻薬密輸とコカイン生産が犯罪の温床となっている
世界最大のコカイン生産国のひとつであるコロンビアでは、麻薬ビジネスが犯罪の主要な資金源となっています。
この背景には、政府の監視が行き届かないジャングル地帯でのコカ栽培、精製された麻薬の国際密輸、そしてそれを巡る組織間抗争があります。
特にメデジンやカリ、ブエナベントゥーラといった都市では、かつての麻薬王パブロ・エスコバルの影響を今も色濃く残し、犯罪組織の再編が繰り返されています。
麻薬密輸ルートを巡る争いは今なお激しく、一般市民や観光客がその巻き添えになるケースも報告されています。
さらに、麻薬資金が警察や政治家にも流れており、法の執行が不十分な地域が存在することも問題です。
一部地域では政府の統治が及ばない「無法地帯」も存在する

国土の広いコロンビアでは、地理的にアクセスが難しい地域や山岳地帯、国境沿いのエリアで、政府の統治が及ばない“無法地帯”が今も多数存在しています。
そのような地域では、FARC残党や他の反政府組織、さらには麻薬カルテルが独自のルールで地域を支配していることもあり、警察や軍ですら立ち入ることを避けるケースもあります。
こうした地域では、観光客はもちろん、現地の一般市民でさえ自分の村から出ることに慎重になるほどの緊張状態が日常となっています。
警察や軍が民間と癒着しているケースもある

コロンビアでは、治安維持を担うはずの警察や軍が、一部で汚職や犯罪に関与しているケースも報告されています。
これは、賃金の安さや教育の未整備、犯罪組織からの買収などが背景にあるとされており、「警察に相談すれば解決する」とは限らないのが現実です。
とくに偽警官による観光客狙いの詐欺が横行しており、正規の制服を着た“ニセモノ”がパスポートチェックや所持品検査を装って金品を盗むといった事例が報告されています。
経済格差が大きく、都市の中でも危険なエリアと安全なエリアが極端に分かれている
コロンビアでは、高級住宅街や再開発エリアのすぐ隣にスラムが広がっているという極端な社会構造が、治安リスクの原因のひとつです。
つまり、「安全なエリア」=「観光客が訪れる場所」ではないという現実があります。
たとえば、ボゴタやメデジンといった都市でも、街の一角を曲がっただけで危険エリアに迷い込んでしまうことがあります。
観光客がその違いを見分けるのは難しく、地元の人でも近づかないエリアに、知らずに足を踏み入れてしまうケースが後を絶ちません。

治安が悪いとされるコロンビアの都市とその特徴

コロンビアには、都市によって安全度に大きな違いがあります。
特に以下に挙げる都市では、観光客も巻き込まれる危険性が高いため、訪れる際は十分な警戒と下調べが不可欠です。
カリ(Cali)は殺人事件が多発する地域として有名
カリ(Cali)は、コロンビア第三の都市であり、サルサの発祥地としても有名な場所です。
陽気なイメージの裏には、実は長年にわたって国内有数の「殺人発生率」の高さを誇る、深刻な治安問題が潜んでいます。
カリでは、特に以下の問題が指摘されています。
- ギャング抗争による銃撃事件が日常的に発生
- 麻薬取引や密売をめぐる縄張り争いが続いている
- 一部の警察官が組織犯罪と癒着している疑惑
市内でも中心部に近いエリアなら比較的安全とされることもありますが、サンティアゴ・デ・カリ郊外の貧困地域には絶対に立ち入らないことが鉄則です。
夜間の外出は危険度が跳ね上がり、タクシーの利用も注意が必要とされています。
ブエナベントゥーラは港湾都市だがギャングの拠点でもある
太平洋に面するブエナベントゥーラ(Buenaventura)は、コロンビア最大の港町として、経済的には重要な役割を担っています。
しかし、その裏側では、麻薬密輸の拠点として国内外の犯罪組織が暗躍していることで悪名高い都市でもあります。
ブエナベントゥーラでは、次のようなリスクがあります。
- 麻薬カルテル間の衝突が頻繁に発生
- 住民を巻き込んだ誘拐や脅迫が日常化
- 殺人、強盗、失踪事件が高い割合で発生
観光客が立ち寄るケースは少ないものの、港湾関連のクルーズやツアーで訪れる場合もあり、注意が必要です。
海沿いのリゾート開発が進められている一方で、治安対策は追いついていないのが現状です。
ボゴタやメデジンでも一部地域ではスリ・強盗に注意が必要

コロンビアの首都ボゴタ(Bogotá)と、近年人気急上昇中のメデジン(Medellín)も、都市全体が安全というわけではありません。特にボゴタでは、
- ラ・カンデラリア地区(旧市街)でスリや置き引きが頻発
- 中心街でも夜間は強盗リスクが高まる
という特徴があります。一方、メデジンでは、都市再開発が進み、観光地や中心部は安全に感じられるものの、
- コムーナ13(Comuna 13)周辺はガイド付きでないと危険
- 夜間に人通りの少ない通りを歩くのは非常に危険
といったリスクが依然として存在しています。
いずれの都市でも、「安全なエリア」と「危険なエリア」が隣り合わせで存在しているため、徒歩での移動には特に注意が必要です。
コロンビア旅行中に遭遇しやすい犯罪とその対処法

コロンビアを旅行する際、最も注意すべきなのは、観光客をターゲットにした軽犯罪や詐欺行為です。
暴力的な犯罪に比べると目立ちにくいですが、実際に巻き込まれるリスクは非常に高いため、事前の知識と心構えが欠かせません。
スリやひったくりは観光地で日常的に発生している
スリやひったくりは、コロンビアの観光地においてもっとも頻繁に発生する犯罪です。
特にボゴタの旧市街ラ・カンデラリアや、メデジンの観光エリア周辺では、昼夜を問わずターゲットにされやすい傾向があります。犯行の手口はとても巧妙で、
- 人混みに紛れてバッグのファスナーを開ける
- 飲食店やカフェで座っている隙に荷物を盗む
- バイクで背後からスマホやカバンをひったくる
といったパターンが多く報告されています。

- バッグは必ず身体の前で持つ
- カフェでは荷物を体に巻きつけるか椅子に固定する
- 路上でスマホを操作するときは周囲を常に確認する
といった行動が有効です。「カメラやスマホを片手にブラブラ歩く=格好の獲物」と思われるので、できる限り観光客らしさを消す努力が求められます。

偽警官によるパスポートチェック詐欺に注意
近年増えているのが、偽の警察官や移民局職員を名乗る詐欺師による被害です。
彼らは本物そっくりの制服やIDカードを持っており、観光客に対して「パスポートの確認が必要だ」と声をかけてきます。
この時、油断してパスポートや財布を見せると、中身を抜き取られたり、高額な“罰金”を請求されるケースが多発しています。
- 路上で警察官を名乗る人物に呼び止められても、即座にパスポートを見せない
- 正規の警官かどうか疑わしい場合は、近くの交番や警察署に一緒に行こうと提案する
- 公式なID提示を求める、または英語ができる警官を呼んでもらうよう要求する
本物の警察官であれば、こうしたリクエストを拒否することは基本的にありません。
逆に態度を急変させて逃げようとする場合は、ほぼ間違いなく偽物と考えてよいでしょう。
夜の移動はリスクが高く、タクシー選びも重要
コロンビアでは、夜間に街中を徒歩で移動するのは非常にリスクが高い行動とされています。
特に暗い路地裏や人通りの少ない場所では、強盗や暴行事件が頻発しており、現地の人でも夜間外出は慎重にしています。
また、タクシー利用時にも注意が必要です。流しのタクシーを捕まえると、運転手が強盗とグルになっていて、人気のない場所で仲間が乗り込んできたり、目的地とは違う方向へ連れて行かれる事件が報告されています。
- Uber、Didiなどの配車アプリを利用する
- ホテルやレストランから信頼できるタクシーを呼んでもらう
- 乗車前に車両番号を控えておく
- 知らない乗客と相乗りしない
また、目的地に到着するまでは、スマホで現在地を確認し続けるなど、自分の安全を自分で守る意識が重要です。
意外と安全な地域もある?コロンビアのポジティブ面に目を向けてみよう
「コロンビア=危険」というイメージが強い一方で、実際には治安が大きく改善された都市や、観光に適した安全なエリアも確実に存在しています。
最新の情報を踏まえて、旅を楽しめる場所を選べば、コロンビアは思い出深い素晴らしい旅先になるでしょう。
メデジンは再開発が進み、安全でおしゃれなエリアも多い
かつて「世界一危険な都市」と呼ばれたメデジン(Medellín)は、今やラテンアメリカの奇跡的な復活を遂げた都市と賞賛されています。
市内の再開発が進み、治安も飛躍的に改善。観光客にとっても魅力的なスポットが続々と増えています。
- エル・ポブラド(El Poblado)地区はおしゃれなカフェやバーが並び、治安も良好
- コムーナ13(Comuna 13)はアートと文化の力で変革したスラム街として、今では人気の観光地(ただし昼間にガイド付きツアーで訪れるのが安全)
- メトロケーブル(ロープウェイ)で郊外の美しい景色を安全に楽しめる
もちろん、夜間の移動や油断は禁物ですが、基本的な注意を払えば十分に楽しめる都市です。
観光に適したビジャ・デ・レイバやカルタヘナは治安が比較的良好
コロンビアには、メデジン以外にも比較的安心して観光できる美しい街がいくつかあります。
- ボゴタからバスで数時間、コロニアル様式の街並みが美しい小さな町
- 石畳の広場、歴史的な建物、落ち着いた雰囲気で人気
- 小規模ながら観光客慣れしており、夜間でも比較的安心して散策可能
- カリブ海沿岸の要塞都市、歴史ある旧市街は世界遺産に登録されている
- 中心地(城壁内)は警備も充実しており、昼夜問わず多くの観光客でにぎわっている
- 海沿いリゾートエリア(ボカグランデなど)は高級ホテルが並び、安全性も高い
カルタヘナに関しては、観光客を狙った軽犯罪(ぼったくりやスリ)には注意が必要ですが、暴力的な事件は稀で、南米でも指折りの安全な観光地といえます。
コロンビアの治安と付き合いながら安全に旅を楽しむコツ
コロンビアは確かに油断できない国ですが、しっかりと対策を取り、現地のルールに沿って行動すれば、安全に素晴らしい体験ができる国でもあります。
ここでは、コロンビア旅行を成功させるために欠かせない、具体的なポイントと心構えを紹介します。
外務省の危険レベルと最新情報を定期的にチェックする

コロンビア旅行を計画するとき、最も基本かつ重要なのが、外務省が発信する危険情報をこまめに確認することです。
外務省の「海外安全ホームページ」では、コロンビア国内の各地域ごとの危険レベルが細かく指定されており、渡航中止勧告や注意喚起情報も随時更新されています。また、現地滞在中も、
- たびレジ(海外渡航者向け安全情報登録サービス)に登録しておく
- 在コロンビア日本国大使館のSNSやホームページで最新ニュースを確認する
- 突発的なデモ、抗争、自然災害情報を素早くキャッチする
これらを習慣にしておくことで、危険を事前に回避できる可能性がぐっと高まります。
高価な持ち物を持ち歩かず、現地の常識を尊重する
コロンビアでは、「持っているもの=ターゲットになるリスク」を意味します。
スマホ、ブランドバッグ、高級時計、大量の現金…。これらを堂々と持ち歩いているだけで、犯罪者にとっては格好の獲物となります。
- 持ち物は必要最低限に(高価なアクセサリーや電子機器はホテルに保管)
- 現地の人がどう行動しているかを観察し、それに合わせる
- 服装は地味で現地に溶け込むスタイルを心がける
また、コロンビアでは敬意を持って振る舞うことが非常に大切です。
笑顔で挨拶する、軽率な言動を避ける、現地文化を尊重することで、不要なトラブルを回避できる可能性も高まります。
まとめ:リスクを理解すれば、コロンビア旅行は十分に楽しめる
コロンビアの旅は、一筋縄ではいかないからこそ、心に残る体験ができる場所でもあります。
その美しい自然、情熱的な文化、人々の温かさ…。それらすべては、「リスクを正しく理解し、行動を選ぶ」ことで手に入れることができるのです。
「危ないから行かない」ではなく、「危ないかもしれないからこそ、賢く旅をする」
この意識を持つことで、コロンビアの本当の魅力に出会うことができるでしょう。さあ、正しい知識と備えを持って、
あなたも、コロンビアという未知の世界へ、一歩踏み出してみませんか?
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